2009年11月29日日曜日

電車の中の落し物

 赤羽駅に電車が着くと、降りる乗客が多くて、混んでいた時とは違って車内を見回して席を探す程度まですいていた。

 すると近く一つ空いている席が目に入ったので、座ろうと傍まで行ったら、そこの席には結構膨らんだ二つ折りの男物の財布が落ちていた。僕は直ぐさま今降りた乗客がズボンのポケットから落としたものと了解した。

 しかしそこで、座席の上の財布を目にしたまま固まってしまった。周囲を見回した所、すぐ斜め後ろに若い男、それと三列シートの端の僕の一つ誰もいない吊皮を置いた隣に、やはり若い男が立っていた。どちらもサラリーマンではなくカジュアルや遊びっぽい服装で、この二人は財布の存在に気付いている様だった。

 さてどうしようか?近くに駅員はいない。この財布を一番近くにいる自分が手にとって届けようとしたら、他の人間にはそのまま猫ばばすると思われ兼ねない。もしこのままここから立ち去ったとしたら、ほかの二人の男も猫ばばしないとは限らない、勿論顔つきや服装からでは、正直な人かそうでないかは判断出来ないのだが。

 立ったままそんな状態でいた所、どこかからでっぷりとした若い男が来て、財布の上から座ってしまった。当然彼は財布を目にしているし、それでも尚疲れていて座りたかったのか、顔を見る限りでは人の良さげな風だったが、尻の下に敷いてしまって、それを知ってる連中が降りてしまったら持ち去るかも知れない可能性は考えられた。

 僕はどうやったら駅員まで届けられるかの答えが出ずに身動きが取れなくなっていた。
電車は何故か乗客が降りてしまった後も、暫くドアは開いたままになっていた。
 するとそこへ一人の若い男が姿勢を低くしながら、右や左に首を振りながら、落とした物を探すように、更には下げていたバックの中に手を入れて中を再確認するようにしながら入って来た。
 僕はその男を見て思わず助け船が来たと思い、「財布ですか?」と聞いた。男は小さく返事して頷いた。この表情や容姿が真面目そうに見えたので、思わずこの男だと思ってしまった。

 僕は「そこ、そこ」と座っている男の尻の下を指差した。すると座っていた男は慌てて尻の下にある財布を取り出して探していた男に渡した。手にした男はドアが何時閉まるか分からないので、言葉を発する間もなく、小さく頭を何度か下げながらそそくさと行ってしまった。

 行ってしまった後で、冷静に今の事を考えてみた。電車のドアが暫く開いていたお陰で落とし主は戻って来る事が出来たが、直ぐに閉まっていたらどんな展開になったか。
 あるいはさっきの落とし主はにせもので、降りる途中で誰かが落としたのを目撃し、暫くしてから落とし主を装って掠め取りに来たのか。しかしそれにしては何時閉まるか分からないドアであれば、もっと早く来ると思われたし、電車の発車時刻を知っていてギリギリに来たという事も考えられなくはないし…。

 しかしその可能性があったとしても限りなく小さいので、自分の行動は間違ってはいなかったと思うのだったが、世の中思いがけない事もあるので、「実は…」という事も無きにしも非ずである。