<身長のハンデを克服できた秘密>
オリンピックのジャンプ競技が始まる前に、NHKでスイスのシモン・アマンの強さの秘密を科学的に解明する番組をやっていた。
彼の名前こそ忘れてはいたが、当然その存在は知っていた。かつては、「日の丸飛行隊」とか言われて、強かった日本のスキージャンプ陣だったが、その後日本に不利なルール改正が行われ、背の低い日本人にとっては不利となり、背の高い欧米人には有利と言われて来た。
所が、172cmで58kgと最も小柄なジャンパーの一人であるアマンが、オリンピックのノーマルヒルとラージヒル両方で金メダルをとった事で、日本側の言い分は単なる責任転嫁の良い訳に過ぎないのではないかといった疑念も湧いた。
そういう事もあって、何故アマンだけが、ハンデといわれる身長の問題を克服出来たのかを知るという点で、大変興味深い内容の番組だった。
ルールの改正で、スキー板は慎重の146%と決められ、身長の低い部類の選手が使用するスキー板の長さが、それまでより短くなってしまった。
ジャンプ競技の場合、板の長さが1cm違うと飛距離が1m違うといわれているという。そのため、180cmを超える大型選手ばかりのヨーロッパ選手にとって有利だと言われて来たのだ。
そんな中で、突如として現れ出たのが、彼という存在だった。
じゃあ、そのこれまでの定説みたいなのは嘘だったのかという事になってしまう、ってな訳で科学的に解明しようという事になったのだろう。
彼もオリンピック前だというのに非常に協力的で、その人柄の良さとともに、天才の自身みたいなものを感じた。
スキージャンプは、「踏切り」で飛距離の9割が決まると言われている。その踏切りの一瞬のタイミングは、時速100kmを超えるようなスピードの中で行われるのだから、百分の何秒のタイミングで合わせる能力が要求される。
選手はそのタイミングで力強く踏み切ろうとするので、脚の筋力トレーニングを日頃から行う。しかし、アマンの脚はそんなに太くはないし、他の一流ジャンパーの方がキック力は強いという。
しかしそれよりも何よりも、百分の何秒と言われる踏み切るタイミングが、彼の場合は完璧に近いらしい。
テレビでは、彼はそういったタイミングで踏み切れる事と、バランス感覚が極めて優秀な事によって、小柄というハンデを物ともせずに他の選手よりも飛距離を出せるのだと言っていた。
そして、スタートから滑走して来る途中で、他の選手はバランスをとる事に意識が奪われて、踏切り一点に集中出来ない所があるのに対して、彼は無意識のうちにバランスをとるので、踏切り一本に集中出来ると結論付けていた。また空中で横風を受けた時の、体が反応してバランスを取る点においても、柔軟に対応出来て優れていると言っていた。
そして「踏切り」を行う動作としては、先ず目から脳へ、そしてそこから脚の筋肉へ踏み切る指令を出す事になる。この一連の動作を百分の一秒たりともずれることなく行うには、脳からの指令に俊敏に反応する脚が重要と思われる。
そういった時、筋力トレーニングで太腿の筋肉を必要以上に付け過ぎてしまったのでは、機敏に指令に従って動かす事が出来難くなるのではないかと、私としてはずっとこれまで思い続けて来ているのだ。反応が悪くなる様なのである、筋肉を付け過ぎてしまった場合には。
スポーツの筋力トレーニングは、過度に筋肉を付けてしまう事によって、機敏・俊敏性がより多く求められる種目においては、マイナス要素が大きくなる事も考えられるのだ。