2月2日の日経新聞によると、高松塚古墳の壁画がカビなどの影響で劣化した問題で、文化庁の外部調査検討会が、「劣化は様々な要因が重なった結果」という報告書の素案をまとめたという。
① それによると、補修の手法や樹脂・薬剤の選択に結果的に誤りがあったほか、文化庁のチェック体制の不備も一因と指摘されている。
② また、旧保存施設の設計上の不備や、保存作業のため多人数が石室に出入りしたことなどが、石室内の湿温度に影響した可能性があるとも分析している。
③ さらには、しっくい補修に使った樹脂にカビが生えたり、カビを筆でぬぐい取る処置で「白虎」の描線が退色したりした可能性も判明したという。
つまりは万全の対策を取ったにも拘わらず、現在の科学技術ではどうにも劣化を防ぎ切れなかったというのではなく、ミスにミスを重ねた結果、劣化を招いてしまったという事のようである。
どうもこの国では、建設物の補修にしても同じ事が言えそうであるが、一般に新しいものを造る分野では、その教育も充実しているようであるが、修理・補修の分野の人材教育の面に関しては、手落ちがあるのではないかと思える。
良く言われるのが、レストランのショーケースの中に展示されているメニューの模造品や博物館で最近良く見かけるレプリカの展示物は、いかにしたら側に寄っても偽物と判別できない程こうもリアルに造られるのだろうかと驚愕を覚えるほどの物が多く、外国人だけではなく、日本人でさえもほとほと感心させられてしまう事が良くある。
しかしながら一方で、美術工芸品や建設・建造物の補修になると、どうにもそれと対比して照らしてみると、納得できない出来栄えの所や物が、多々見受けられるのである。
恐らくその能力が劣るのではなく、そちらの方の技術開発や教育などへの力の入れようが手薄な状態になっているのが原因ではなかろうかと危惧されるのである。
文化財の保存に関して最も避けなければならない事は、補修・保存の作業によって、却って文化財そのものの本質が損なわれたり、劣化が進んでしまう事態である。つまり、保存という大義名分のもとで破壊という全く逆の行為が実施されてしまう事になるのだ。