もう二十年以上も前の事だが、山手線の目黒駅前のキオスクで新聞やら雑誌を眺めていた時に、ふと駅前広場の方に目をやった所、向こうから買い物かごをさげてこっちにやって来る人が目に止まった。
今どき買い物かごを使う人も珍しいなと思い、どういう人なのかと関心を持ってしまった。その人はどんどんこちらの方にやって来て、顔が分かるまでになった。
あに計らんやその人は女性ではなく、男性で、しかも見覚えのある顔だった。作家の丸谷才一氏だったのだ。
彼は売店の雑誌類を一通り眺め回す様にしてから、立ち去って行った。
その頃はバブルの時期だったろうか、ほとんど誰もエコなどという人もなくて、ちょっと環境問題云々を言うと、お前のようなのが偉そうな事を言うな、みたいな雰囲気の時代だった様な気がする。
自分の頭で考えるから、自分の哲学が持てるんじゃないかって思ったりする。