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東京都豊洲新市場工事の入札で不調
東京都の築地市場(中央区)が老朽化したために江東区豊洲に移る事になり、その本体工事の入札が先月実施された。しかし4件中の3件の工事価格が都と業者の間で折り合わずに不調となった。
原因は
①東日本大震災の
復興事業、
②原発事故の
除染作業、
③老朽化した
公共施設の建て替えや耐震化工事、
④アベノミクスや消費税アップ前の駆け込み需要による
マンションの建築ラッシュ、
⑤円安による
原材料の高騰、
⑥
オリンピック需要
などが重なり、建設材料の高騰や人手不足による人件費アップのため、自治体の示した予定価格との折り合いが付かなくなっていて、今後はさらにオリンピック準備が本格化するとコスト高が深刻になり、国や自治体の財政がさらに悪化する事が予想される。
豊洲新市場のイメージ図
不調になった3件は青果棟(鹿島建設)、水産卸売場棟(大成建設・竹中工務店などのJV)、水産仲卸売場棟(清水建設・大林組などのJV)で、落札となった1件は衛生検査所の管理棟工事のみ。業者は関東・鍛治田・川土・国際建設のJVで金額は約69億円。
水産仲卸売場棟は鉄骨鉄筋造5階建て、延べ面積は69,000㎡で予定落札価格は260億円。水産卸売場棟は208億円。青果棟は159億円。
豊洲新市場の移転整備には合計約3,926億円がかかる。その内訳は建設費が990億円、土壌の汚染対策費に586億円、用地費は1980億円、護岸整備や道路の高架化に370億円となっている。
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都内で公共工事の入札不調になった主な例は次の通り。
これまで都の発注による入札工事で不調になった例では、
1.
武蔵野の森総合スポーツ施設(仮称)の入札が7月に行われたが、不調になった。施設は調布市の飛田給に建設が予定されていて、バレーボールやバスケットボールやコンサートができるメインアリーナ棟と屋内プールなどを備えたサブアリーナ棟で構成されている。
この入札では参加者全員が辞退することになり、都は予定価格をメインアリーナでは8%、サブアリーナでは3%上乗せして10月の再入札の結果、前者が99億7,800万円(税別)、後者が68億5,000万円(税別)で落札された。ここは2020年の東京五輪会場になる予定。
2.東京都豊島区千早2-39-3に計画されている
図書館や豊島区の事務所が入る複合施設では、8月の入札では参加希望者がなく、予定価格を約23億円から約32億円(税抜き)まで大幅アップしたが、参加した建設会社は47億円で入札し、15億円の差があった。規模は鉄骨鉄筋造3階建て地下1階、延べ面積9,011㎡。
3.東京都北区志茂の
赤羽体育館(仮称)建築工事では1月、5月、9月の計3回も落札業者なしとなった。規模は鉄骨造4階建ての地下1階で、延べ面積は約8,500㎡。施設内容は弓道場やトレーニングルームなど。
4.東京都港区のJR田町駅東口近くに計画している
スポーツセンターの外構工事では5月から8月にかけて3回連続で業者が決まらず、区では初回の予定価格の約3億5,000万円から1,000万円を上乗せした。
5.東京都港区営住宅シティハイツ六本木等整備工事の入札が不調になった。場所は港区六本木6-5-25他で、施設内容は区営住宅・サービス付き高齢者向け住宅・訪問看護と介護のステーション・障害者ケアホーム。予定価格は30億1662万9,000円で、旧熊本会館・港区営住宅シティハイツ六本木の解体工事を伴う。
6.東京都中央区新富1‐101‐5の労働スクエア東京跡地に計画されている複合施設の「本の森ちゅうおう(仮称)」は総工事費が約88億円だが、参加申し込みをしていた2つのJVが区の予定価格では採算が合わないと辞退した。
施設は、図書館の機能を核に「郷土資料館」などや敬老館を設ける。規模は7階建て(塔屋1階)地下2階で、高さが42m、延べ面積は19,060㎡。
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東京都以外の入札不調は次の通り。
1.埼玉県では9月に
県立小児医療センター新病院の本体建築工事の入札が不調になっている。
2.秋田市でも
新庁舎建設工事で入札が2度不成立になり、3度目で清水建設・千代田興業・シブヤ建設工業・田村建設JVに決まった。落札額は115億9,000万円(税別)。
3.長野市役所
第一庁舎と同市民会館の建設工事でも5月に入札の不成立があった。
4.長野県飯山市の市民会館「(仮称)飯山ぷらざ」は9月30日までに消費税の経過措置が受けられなくなって、数千万円の費用がかさむ事になった。
5.長野県小諸市で(独)国立病院機構による小諸高原病院の病院新築・改修工事の入札が不調。
同機構では、2013年度上半期(4~9月)に入札を実施した全国25病院の建築工事のうち、84%にあたる21病院で入札不調になったという。
6.長野県松本市にある松本病院のまつもと医療センター新病院棟建築工事が入札不調。
7.富山県射水市の新庁舎建設工事でも入札の不調があった。消費税が3%アップすると1億5,000万円増になるという。また民間では市内総曲輪に新社屋を建設を予定していた日医工は当初の計画より3割増の予算が必要になったため、今の所計画を進める予定はないという。
8.栃木県佐野市の新庁舎建設では工事費が12億円も積み増しになった。
9JR酒田駅前の再開発計画で、ホテル棟と商業棟の入札を昨年11月に実施したが、予定価格を3割も上回る結果になり、今年の6月時点では「現在のスキームでは困難」という状況。なお山形県の庄内エリア(人口約30万人)に型枠業者はたった1社。
10.山形県酒田市の新庁舎建設でも3度目の入札で、大成建設などのJVが39億6,800万円で落札した。これは当初予定していた価格より5~6億円の増額。
11.広島市の県と医師会による高精度放射線治療センターと地域医療総合支援センターの工事入札が7月にあったが、指名された全社が入札への参加を辞退した。予定価格は38億3,800万円(県が18億9,800万円、県医師会が19億4,000万円)。規模は地上7階(一部2階)地下1階。
12.広島県呉市の新庁舎では入札が2度不成立になり、予定価格を13億2,300万円増額した。3回目でようやく決まったという。
■ 参考情報
不動産経済研究所によると、10月の首都圏新築マンション価格は平均で4909万円と前年比16.4%増加した。
国交省の調べだと、11月末の建設業者数は48万とピーク時の1999年度末から20%減った他、高齢化も進み、このため老朽化した橋やトンネルの補強・点検など急増した公共事業への対応が追い付かない。
建設物価調査会の調べでは、仙台市の生コン価格は2月に震災前の4割以上も高騰した。昨年4月から今年1月までの入札不調は49%にも上る。
建築資材のH形鋼は、日銀の国内企業物価指数では9カ月連続で上昇。9月に106(10年平均が100)まで高まった。